「奥さんは何という方です。」
すると下男が答えた。
「南の村の鄭《てい》公子の二度目の奥さまでございます。」
景はまた訊いた。
「いつ婚礼をしたのです。」
下男はいった。
「半月ほど前でございます。」
景は半月[#「半月」は底本では「年月」]位前とはおかしいと思った。
「それは思いちがいじゃないかね。」
驢の上の女郎はこの言葉を聞いて、振り向いてじっと見た。それはほんとうの阿霞であった。景は女が約束に負《そむ》いて他の家へ適《い》ったのを知って憤《いきどお》りで胸の中が一ぱいになった。彼は大声をあげて叫ぶようにいった。
「阿霞、君は昔の約束を忘れたのか。」
下男達は景が主婦の名を口にするのを聞いて、怒ってなぐりつけようとした。女はそれを止めて、障紗《かおおおい》を啓《あ》けて景にいった。
「人に負いておいて、どんな顔をして私を見るのです。」
景はいった。
「君が自分で僕に負いてるじゃないか。僕が何を君に負いたのだ。」
女はいった。
「奥さんに負くのは、私に負くよりもひどいです。少さい時から夫婦になっている者さえそうするのですから、まして他の者であったら、どうするのでし
前へ
次へ
全9ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング