阿霞
蒲松齢
田中貢太郎訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)文登《ぶんとう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)数日間|留《と》めて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)半月[#「半月」は底本では「年月」]位前
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文登《ぶんとう》の景星《けいせい》は少年の時から名があって人に重んぜられていた。陳《ちん》生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣《そでがき》一つを隔てているにすぎなかった。
ある日の夕暮、陳は荒れはてた寂しい所を通っていると、傍の松や柏の茂った中から女の啼《な》く声が聞えて来た。近くへいってみると、横にしだれた樹の枝に帯をかけて、縊死《いし》しようとしているらしい者がいた。陳は、
「なぜ、そんなことをするのです。」
といって訊いた。それは若い女であった。女は涕《なみだ》を拭いながら、
「母が遠くへまいりましたものですから、私を従兄《いとこ》の所へ頼んでありましたが、従兄がいけない男で、私の世話をしてくれないものですから、私は独りぼっちです。私は死ぬるがましです。」
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