といってからまた泣いた。陳は枝にかけてある帯を解いて、
「困るなら結婚したらいいでしょう。」
 といって勧めた。女は、
「でも私は、ゆく所がないのですもの。」
 といった。陳は、
「では、私の家に暫《しばら》くいるがいいでしょう。」
 といった。女は陳の言葉に従うことになった。陳は女を伴《つ》れて帰り、燈《あかり》を点《つ》けてよく見ると、ひどく佳《い》い容色《きりょう》をしていた。陳は悦んで自分の有《もの》にしようとした。女は大きな声をたててこばんだ。やかましくいう声が隣りまで聞えた。景は何事だろうと思って牆《かき》を乗り越えて窺きに来た。陳はそこで女を放した。女は景を見つけてじっと見ていたが、暫くしてそのまま走って出ていった。陳と景とは一緒になって逐《お》っかけたが、どこへいったのか解らなくなってしまった。
 景は自分の室へ帰って戸を閉めて寝ようとした。と、さっきの女がすらすらと寝室の中から出て来た。景はびっくりして訊いた。
「なぜ、きみは、陳君の所から逃げたかね。」
 女はいった。
「あの方は、徳が薄いのに、福が浅いから、頼みにならないですわ。」
 景はひどく喜んで、
「きみは、
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