何というのだ。」
といって訊いた。女はいった。
「私の先祖が斉《せい》にいたものですから、斉を姓としてるのですよ。私の幼な名は阿霞《あか》といいますの。」
二人は寝室の中へ入った。景はそこで冗談をいったが、女は笑ってこばまなかった。とうとう女は景の許にいることになった。景の書斎へ友人がたくさん来た。女はいつも奥の室に隠れていた。数日して女がいった。
「私、ちょっと帰ってまいります。それにここは人の出入が多くて、私がいては人に迷惑をかけますから、今から夜よるまいります。」
といった。景は、
「きみの家はどこだね。」
というと、女はいった。
「あまり遠くないことよ。」
とうとう朝早く帰っていったが、夜になると果して来た。二人の間の懽愛《かんあい》はきわめて篤《あつ》かった。また数日して女はいった。
「私たち二人の間は佳《い》いのですけど、いってみると馴れあいですからね。私のお父様が官途に就《つ》いて、西域《せいいき》の方へいくことになって、明日お母さんを伴《つ》れて出発するのですから、それまでに好い機《おり》を見て、お父さんとお母さんの許しを受けて、一生お側にいられるようにして来
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