だ、あなたの所へまいりません時に、あすこへ逃げ込んで、ひどくお世話になっております。あの人は行いは賎しいのですが、それでも先祖の徳がまだたえておりません。それにあなたとはお友達ですから、友達のよしみになんとかしてあげたらいいでしょう。」
 鄭はそれをもっともの事であるとして、景の着ている敗れた綿入をかえさし、数日間|留《と》めてやった。それは夜半ごろであった。景が寝ようとしていると婢《じょちゅう》が来て二十余金を置いていった。その時阿霞は窓の外に立っていたが、
「それは、私の金ですから、昔お世話になったお礼にさしあげます。お帰りになったら、良い匹《つれあい》をお求めになるがよいでしょう。幸にあなたには先祖の徳が厚いのですから、まだ子孫に及ぼすことができます。どうかこれから、二度と節制を失わないようにして、晩年を送ってください。」
 景は感謝して帰り、その金のうちから十余金さいて、ある縉紳《しんしん》の家にいる婢《じょちゅう》を買って細君にしたが、その女はひどく醜くて、それで気が強かった。景とその女との間に一人の子供が生れたが、後に郷試と礼部の試《し》に及第した。
 鄭は官が吏部郎までい
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