を極め、午後十一時|漸《やうや》く当市に無事安着仕候。乍他事《たじながら》御安意|被下度《くだされたく》候。何《いづ》れ故郷に安着の上にて Letter を差上げます。末筆乍ら I wish you a happy.
六月二十八日午前六時○○市出発に臨みて。
[#ここで字下げ終わり]
甲田は吹出《ふきだ》した。中学の三年級だと言つたが、これでは一年級位の学力しかないと思つた。此木田老訓導は、『何《ど》うしました? 何か面白い事がありますか?』と言ひ乍ら、立つて来てその葉書を見て、
『やあ、英語が書いてあるな。』と言つた。
甲田はそれを皆《みんな》に見せた。そして旅の学生に金を呉れてやつた事を話した。○○市へ行くと言つて出て行つて、密《こつそ》り木賃宿へ泊つて行つた事も話した。終《しま》ひに斯う言つた。
『矢張《やつぱり》気が咎《とが》めたと見えますね。だから送中で腹が痛くて困難を極めたなんて、好加減な嘘を言つて、何処までもあの日のうちに○○に着いたやうに見せかけたんですよ。』
『然し、これから二度と逢ふ人でもないのに、何《ど》うしてこの葉書なんか寄越したんでせう?』と田辺校長は言
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング