葉書
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)老爺《おやぢ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五円|宛《づつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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 ××村の小学校では、小使の老爺《おやぢ》に煮炊《にたき》をさして校長の田辺が常宿直《じやうしゆくちよく》をしてゐた。その代り職員室で用《つか》ふ茶代と新聞代は宿直料の中から出すことにしてある。宿直料は一晩八銭である。茶は一斤半として九十銭、新聞は郵税を入れて五十銭、それを差引いた残余の一円と外に炭、石油も学校のを勝手に用《つか》ひ、家賃は出さぬと来てるから、校長はどうしても月に五円|宛《づつ》得をしてゐる。此木田《このきだ》老訓導は胸の中で斯《か》う勘定してゐる。その所為《せゐ》でもあるまいが、校長に何か宿直の出来ぬ事故のある日には、此木田訓導に屹度《きつと》差支へがある。代理の役は何時でも代用教員の甲田に転んだ。も一人の福富といふのは女教員だから自然と宿直を免れてゐるのである。
 その日も、校長が欠席児童の督促に出掛けると言ひ
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