て行つたのは、つい昨日のことである。視學はその時、此學校の兒童出席の歩合《ぶあひ》は、全郡二十九校の中、尻から四番目だと言つた。畢竟これも職員が缺席者督促を※[#「がんだれ+萬」、第3水準1−14−84]行しない爲めだと言つた。その責任者は言ふ迄もなく校長だと言つた。好人物の田邊校長は『いや、全くです。』と言つて頭を下げた。それで今日は自分が先づ督促に出かけたのである。
この歩合といふ奴は始末にをへないものである。此邊の百姓にはまだ、子供を學校に出すよりは家に置て子守をさした方が可いと思つてる者が少なくない。女の子は殊にさうである。急《せは》しく督促すれば出さぬこともないが、出て來た子供は中途半端から聞くのだから教師の言ふことが薩張《さつぱり》解らない。面白くもない。教師の方でも授業が不統一になつて誠に困る。二三日經てば、自然また來なくなつて了ふ。然しそれでは歩合の上る氣づかひはない。其處で此邊の教師は、期せずして皆出席簿に或手加減をする。そして、嘘だと思はれない範圍で、歩合《ぶあひ》を誤魔化して報告する。此學校でも、田邊校長からして多少その祕傳をやつてゐるのだが、それでさへ仍且《な
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