た。
『さうです、休むだけでも可いんです。今日はもう十里も歩いたから、すつかり疲れて居るんです。』
甲田は一寸|四邊《あたり》を見※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]してから、
『裏の方へ※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]りなさい。』と言つた。
小使室へ行つて見ると、近所の子供が二三人集つて、石盤に何か書いて遊んでゐた。大きい爐が切つてあつて、その縁に腰掛が置いてある。間もなくその男が入つて來て、一寸會釋をして、草鞋を脱がうとする。
『土足の儘でも可いんです。』
『さうですか、然し草鞋を脱がないと、休んだやうな氣がしません。』
斯う言つて、その男は憐みを乞ふやうな目附をした。すると甲田は、
『其處に盥があります。水もあります。』と言つた。その時、廣い控所を横ぎつて職員室に來る福富の足音が聞えた。子供等は怪訝《けげん》な顏をして、甲田とその男とを見てゐた。
若い男は、草鞋を脱いで上つて、腰掛に腰を掛けた。甲田も、此儘|放《はう》つて置く譯にもいかぬと思つたから、向ひ合つて腰を掛けた。
『君は此學校の先生ですか?』と男は先刻訊いたと同じ事を言つた。但《た
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