あげた。『ですけれども、アノ方が来たから私に用がなくなつたんぢやないですかねす?』
『其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》訳は無いでせう。僕はまだ、モ一人位入れようかと思つてる位だ。』
『ハ?』と野村は、飲込めぬと云つた様な眼付をする。
『僕は、五月の総選挙以前に六頁に拡張しようと考へてるんだが、社長初め、別段不賛成が無い様だ。過般《こなひだ》見積書も作つて見たんだがね。六頁にして、帯広のアノ新聞を買つて了つて、釧路十勝二ヶ国を勢力範囲にしようと云ふんだ。』
『ハア、然うですかねす。』
『然うなると君、帯広支社にだつて二人位記者を置かなくちやならんからな。』
渠の頭脳《あたま》は非常に混雑して来た。嗚呼、俺は罷めさせられるには違ひないんだ。だが、竹山の云つてる処も道理《もつとも》だ。成程然うなれば、まだ一人も二人も人が要る。だが、だが、ハテナ、一体社の拡張と俺と、甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》関係になつてるか知ら? 六頁になつて……釧路十勝二ヶ国を……帯広に支社を置いて…
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