『然う然う、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》癖がありましたね。一体|一寸々々《ちよいちよい》奇抜な事をやり出す人なんで、書く物も然うでしたよ。恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんな》下らん事をと思つてると、時々素的な奴を書出すんですから。』と竹山が相槌を打つ。
『那※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《ああ》いふ男は、今の時世ぢや全く珍しい。』と主筆が鷹揚に嘴を容《はさ》んだ。『アレでも若い時分は随分やつたもので、私の県で自由民権の論を唱導し出したのは、全くアノ男と何とか云ふモ一人の男なんです。学問があり演説は巧し、剰《おまけ》に金があると来てるから、宛然《まるで》火の玉の様に転げ歩いて、熱心な遊説をやつたもんだが、七八万の財産が国会開会|以前《まへ》に一文も無くなつたとか云ふ事だつた。』
『全く惜しい人です喃《なあ》、函館みたいな俗界に置くには。』と田川は至極感に打たれたと云ふ口吻《くちぶり》。
 野村は遂々《たうたう》恁※[#「麾」
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