の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]話に耐《こら》へ切れなくなつて、其室を出た。事務室を下りて暖炉にあたると、受付の広田が「貴方《あんた》新しい足袋だ喃。俺ンのもモウ恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]になつた。」と自分の破けた足袋を撫でた。工場にも行つて見た。活字を選り分ける女工の手の敏捷《すばしこ》さを、解版台の傍に立つて見惚《みと》れて居ると、「貴方は気が多い方ですな。」と職長の筒井に背を叩かれた。文選の小僧共はまだ原稿が下りないので、阿弥陀※[#「鬥<亀」、第3水準1−94−30]をやつてお菓子を買はうと云ふ相談をして居て、自分を見ると、「野村さんにも加担《かた》ツて貰ふべか。」と云つた。機械場には未だ誰も来て居ない。此頃着いた許りの、新しい三十二面刷の印刷機《ロール》には、白い布が被《か》けてあつた。便所《はばかり》へ行く時小使室の前を通ると、昨日まで居た筈の、横着者の爺《おやぢ》でなく、予《かね》て噂のあつた如く代へられたと見えて、三十五六の小造りの男が頻りに洋燈掃除をして居た。嗚呼アノ爺も罷めさせら
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