だ。』
『ハア、然《さ》うですかねす。』
『然うなると君、帶廣支社にだつて二人位記者を置かなくちやならんからな。』
渠の頭腦は非常に混雜して來た。嗚呼、俺を罷めさせられるには違ひないんだ、だが、竹山の云つてる處も道理だ。成程|然《さ》うなれば、まだ一人も二人も人が要る。だが、だが、ハテナ、一體社の擴張と俺と、甚※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《どんな》關係になつてるか知ら? 六頁になつて……釧路十勝二ケ國を……帶廣に支社を置いて、……田川が此方に居るとすると俺は要らなくなるし……田川が帶廣に行くと、然うすると雖も帶廣にやられるか知ら……ハテナ……恁《か》うと……それはまだ後の事だが……今日は怎《どう》うか知ら、今日は?……
『だがね、君。』、と稍あつてから低めの調子で竹山が云つた時、其聲は渠の混雜した心に異樣に響いて、「矢張今日限りだ」といふ考へが征矢《そや》の如く閃いた。
『だがね、君。僕は卒直に云ふが、』と竹山は聲を落して眼を外らした。『主筆には[#「には」は底本では「にい」]君に對して、餘り好い感情を有つてない樣な口吻が、時々見えぬでも無
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