と頭を撃たれた心地。
『ハア然《さ》うですか。』と挨拶はしたものの、總身の血が何處か一處に塊つて了つた樣で、右の手と左の手が交る交るに一度宛、發作的にビクリと動いた。色を變へた顏を上げる勇氣もない。
『アノ人は面白い人でして、得意な論題でも見つかると、屹度先づ給仕を酒買にやるんです。冷酒を呷りながら論文を書くなんか、アノ温厚な人格に比して怎《どう》やら奇蹟の感があるですな。』と、田川と呼ばれた男が談り出した。誰の事とも野村には解らぬが、何れ何處かの新聞社に居た人の話らしい。
『然う然う、其※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《そんな》癖がありましたね。一體|一寸々々《ちよい/\》奇拔な事をやり出す人なんで、書く物も然うでしたよ。恁※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《こんな》下らん事をと思つてると、時々素的な奴を書出すんですから。』と竹山が相槌を打つ。
『那※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《あゝ》いふ男は、今の時世ぢや全く珍しい。』と主筆が鷹揚に嘴を容《はさ》んだ。『アレでも
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