ね。実際困ツ了《ちま》ふんだ。君自身ぢや痛快だツたツて云ふが、然し、免職になる様な事を仕出かす者にや、まあ誰だツて同情せんよ。それで此方《こつち》へ来るにしてもだ。何とか先きに手紙でも来れや、職業《くち》の方だツて見付けるに都合が可《いい》んだ。昨日は実際僕|喫驚《びつくり》したぜ。何にも知らずに会社から帰ツて見ると、後藤の肇さんが来てるといふ。何しにツて聞くと、何しに来たのか解らないが、奥で昼寝をしてるツて、妹が君、眼を丸くして居たぜ。』
『彼※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》大きな眼を丸くしたら、顔一杯だツたらう。』
『君は何時でも人の話を茶にする。』と忠志君は苦り切つた。『君は何時でも其調子だし、怎《どう》せ僕とは全然《まるつきり》性が合はないんだ。幾何《いくら》云ツたツて無駄な事は解ツてるんだが、伯母さんの……………………君の御母さんの事を思へばこそ、不要《いらない》事も云へば、不要心配もするといふもんだ。母も云ツたが、実際君と僕程性の違ツたものは、マア滅多に無いね。』
『性が合はんでも、僕は君の従兄弟《いとこ》だよ。』

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