ピリ/\と動いた。何か言はうとする様に、二三度口を蠢《うごめ》かしてチラリ仰向の男を見た目を砂に落す。『同じ事許り繰返していふ様だが、実際|怎《どう》も、肇さんの為方《やりかた》にや困ツて了ふね。無頓着といへば可《いい》のか、向不見《むかうみず》といへば可のか、正々堂々とか赤裸々とか君は云ふけれど、露骨に云へや後前《あとさき》見ずの乱暴だあね。それで通せる世の中なら、何処までも我儘通してゆくも可さ。それも君一人ならだね。彼※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》に年老《としと》ツた伯母さんを、………………………今迄だツて一日も安心さした事ツて無いんだが、君にや唯《たつた》一人の御母《おつか》さんぢやないか、此以後《このさき》一体|怎《どう》する積りなんだい。昨宵《ゆうべ》もね、母が僕に然《さう》云ふんだ。君が楠野さん所《とこ》へ行ツた後にだね、「肇さんももう二十三と云へや小供でもあるまいに姉さんが什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》に心配してるんだか、真実《ほんたう》に困ツちまふ」ツて
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