ヽ。』と笑つたが、『胸に絃があるんだよ。君にも、僕にも。』
『これだね。』と云ツて、楠野君は礑《はた》と手を拍つ。
『然だ、同《おんな》じ風に吹かれて一緒に鳴り出したんだ。』
 二人は声を合せて元気よく笑ツた。
『兎も角|壮《さか》んにやらうや。』と楠野君は胸を張る。
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]。やるとも。』
『僕は少し考へた事もあるんだ。怎せ君は、まあ此処に腰を据ゑるんだらう。』
『喰ひ詰めるまで置いて貰はう。』
『お母さんを呼ばう。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]。呼ばう。』
『呼んだら来るだらう。』
『来てから何を喰はせる。』
『那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》心配は不要《いらん》よ。』
『不要《いらない》こともない。僕の心配は天下にそれ一つだ。今まで八円ぢや仲々喰へなかツたからね。』
『大丈夫だよ。那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事は。』
『然《さう》かえ。』
『まあ僕に委せるさ。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]、委せよう。
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