《いや》、殺されるまでだ。……』
『だから僕は生きてるぢやないか。』
『噫。』
『死ぬのは不可《いかん》が、泣くだけなら可《いい》だらう。』
『僕も泣くよ。』
『涙の味は苦いね。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]。』
『実に苦いね。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]。』
『恋の涙は甘いだらうか。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]。』
『世の中にや、味の無い涙もあるよ。屹度あるよ。』
三
『君の顔を見ると、怎《どう》したもんだか僕あ気が沈む。奇妙なもんだね。敵の真中に居れや元気がよくて、味方と二人ツ限《きり》になると、泣きたくなツたりして。』
肇さんは恁《かう》云ツて、温和《おとなし》い微笑を浮かべ乍ら、楠野君の顔を覗き込んだ。
『僕も然だよ。日頃はこれでも仲々意気の盛んな方なんだが、昨夜《ゆふべ》君と逢ツてからといふもの、怎したもんか意気地の無い事を謂ひたくなる。』
『一体|何方《どつち》が先に弱い音を吹いたんだい。』
『君でもなかツた様だね。』
『君でもなかツた様だね。』
『何方でも無いのか。』
『何方でも無いんだ。ハハヽヽヽ
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