、如何に声を大きくして叫んだとて、矢張駄目なんだね。それよりは、年の若い女といふものは比較的感化し易い、年若い女に教へる女学校が、乃ち僕等の先づ第一に占領すべき城だと考へたね。若い女を改造するのだ。改造された女が、妻となり母となる。家庭の女王となる、……なるだらう、必ず。詰り唯一人の女を救ふのが、其家庭を改造し、其家庭の属する社会を幾分なりとも改造することが出来る訳なんだ。僕は然思ツたから、勇んで三十五円の月給を頂戴する女学校の教師になツたんだ。』
『なツて見たら、燐寸箱《マツチばこ》の様だらう。学校といふものは。』
『燐寸箱! 然だ、燐寸箱だよ、全たく。狭くて、狭くて、全然《まるで》身動きがならん。蚤だつて君、自由に跳ねられやせんのだ。一寸何分と長《たけ》の定《きま》ツた奴許りが、ギツシリとつめ込んである。僕の様なもんでも、今迄何回反逆を企てたか解らん。反逆といツても、君の様に痛快な事は自分一人ぢや出来んので、詰り潔く身を退く位のものだね。ところが、これでも多少は生徒間に信用もあるので、僕が去ると生徒まで動きやしないかといふ心配があるんだ。そこが私立学校の弱点《よわみ》なんだね。だか
前へ 次へ
全33ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング