なあ》、君、那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》豪《えら》い馬が内地になんか一疋だツて居るもんか。』
『ハハヽヽヽ』と楠野君は哄笑したが、『然しね君、北海道も今ぢや内地に居て想像する様な自由の天地ではないんだ。植民地的な、活気のある気風の多少残ツてゐる処もあるかも知れないが、此函館の如きは、まあ全然《まるで》駄目だね。内地に一番近い丈それ丈|不可《いかん》。内地の俗悪な都会に比して優ツてるのは、さうさね、まあ月給が多少高い位のもんだらう。ハハヽヽヽ。』
『そんなら君は何故三年も四年も居たんだ。』
『然《さう》いはれると立瀬が無くなるが、……詰り僕の方が君より遙かに意気地が無いんだね。……昨夜も話したツけが、僕の方の学校だツて、其内情を暴露して見ると実際情け無いもんだ。僕が這入ツてから既に足掛三年にもなるがね。女学校と謂へや君、若い女に教へる処だらう。若い女は年をとツて、妻になり、母になる。所謂家庭の女王になるんだらう。其処だ、君。僕は初めに其処を考へたんだ。現時の社会は到底破壊しなけりやならん。破壊しなけやならんが、僕等一人や二人が
前へ
次へ
全33ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング