右手を延して砂の上の紙莨《タバコ》を取ツたが、直ぐまた投げる。『這※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》社会だから、赤裸々な、堂々たる、小児《せうに》の心を持ツた、声の太い人間が出て来ると、鼠賊共、大騒ぎだい。そこで其種の声の太い人間は、鼠賊と一緒になツて、大笊を抱へて夜中に林檎畑に忍ぶことが出来ぬから、勢ひ吾輩の如く、天が下に家の無い、否《いや》、天下を家とする浪人になる。浪人といふと、チヨン髷頭やブツサキ羽織を連想して不可《いかん》が、放浪の民だね、世界の平民だね、――名は幾何《いくら》でもつく、地上の遊星といふ事も出来る。道なき道を歩む人とも云へる、コスモポリタンの徒と呼んで見るも可《いい》。ハ………。』
『そこでだ、若し後藤肇の行動が、後前《あとさき》見ずの乱暴で、其乱暴が生得《うまれつき》で、そして、果して真に困ツ了《ちま》ふものならばだね、忠志君の鼠賊根性は怎《どう》だ。矢張それも生得で、そして、ウー、そして、甚だ困つて了はぬものぢやないか。怎だい。従兄弟君、怒ツたのかい。』
『怒ツたツて仕様が無い。』と、稍|霎時《しばらく
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