、自分で自分を縛る繩を作ツて太陽の光が蝋燭の光の何百万倍あるから、それを仰ぐと人間の眼が痛くなるといふ真理を発見して、成るべく狭い薄暗い所に許り居ようとする。それで、日進月歩の文明はこれで厶《ござ》いと威張る。歴史とは進化の義なりと歴史家が説く。アハヽヽヽヽ。
学校といふ学校は、皆鼠賊の養成所で、教育家は、好な酒を飲むにも隠密《こつそり》と飲む。これは僕の実見した話だが、或る女教師は、「可笑《をか》しい事があツても人の前へ出た時は笑ツちや不可《いけ》ません。」と生徒に教へて居た。可笑しい時に笑はなけれあ、腹が減ツた時|便所《はばかり》へ行くんですかツて、僕は後で冷評《ひやか》してやツた。………………尤もなんだね、宗教家だけは少し違ふ様だ。仏教の方ぢや、髪なんぞ被らずに、凸凹《でこぼこ》の瘤頭を臆面もなく天日に曝して居るし、耶蘇《やそ》の方ぢや、教会の人の沢山集ツた所でなけれあ、大きい声出して祈祷なんぞしない。これあ然し尤もだよ。喧嘩するにしても、人の沢山居る所でなくちや張合がないからね。アハヽヽ。』
『アハヽヽヽ。』と、楠野君は大声を出して和した。
『処でだ。』と肇さんは起き上ツて、
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