な調子で口を切る。『君の乱暴は、或は生来《うまれつき》なのかも知れないね。そら、まだお互に郷里《くに》に居て、尋常科の時分だ。僕が四年に君が三年だツたかな、学校の帰途《かへり》に、そら、酒屋の林檎畑へ這入ツた事があツたらう。何でも七八人も居たツた様だ。………………』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、さうだ、僕も思出す。発起人が君で、実行委員が僕。夜になツてからにしようと皆《みんな》が云ふのを構ふもんかといふ訳で、真先に垣を破ツたのが僕だ。続いて一同《みんな》乗り込んだが、君だけは見張をするツて垣の外に残ツたツけね。真紅《まつか》な奴が枝も裂けさうになツてるのへ、真先に僕が木登りして、漸々《やうやう》手が林檎に届く所まで登ツた時、「誰だ」ツてノソノソ出て来たのは、そら、あの畑番の六助|爺《ぢぢい》だよ。樹下《した》に居た奴等は一同《みんな》逃げ出したが、僕は仕方が無いから黙ツて居た。爺奴《ぢぢいめ》嚇《おど》す気になツて、「竿持ツて来て叩き落すぞ。」ツて云ふから、「そんな事するなら恁《かう》して呉れるぞ。」ツて、僕は手当り次第林檎を採ツて打付《ぶつつ》けた。爺|喫驚
前へ 次へ
全33ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング