してゐることに壓迫を感じてゐるので、それを紛《まぎ》らかさうとして、何か話を始め樣としたが、兎角、言葉が喉に塞《つま》る。其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》筈はないと自分で制しながらも、斷々《きれ/″\》に、信吾が此女を莫迦《ばか》に讃めてゐた事、自分がそれを兎や角冷かした事を思出してゐたが、腰を掛けるを切懸《きつかけ》に、
『貴女は、何日お歸りになります?』と何氣なく口を切つた。
『三日に、あの歸らうと思つてます。』
『然うですか。』
『貴方は?』
『僕は何日でも可いんですが、矢張り三日頃になるかも知れません。』と言つたが不圖思ひついた事がある樣に、
『貴女は盛岡の中學に圖畫の教師をしてる男を御存じありませんか? 渡邊金之助といふ?』
『存じて居ります。』と、智惠子は驚いた樣な顏をする。
『貴方《あなた》はあの、あの方と同じ學校を……?』
『然うです。美術學校で同級だつたんですが、……あゝ御存知ですか! 然うですか!』と鷹揚《おうやう》に頷《うなづ》いて、『甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94
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