−57]《どんな》で居るんでせう? まだ結婚しないでせうか?』
『え、まだ爲《な》さらない樣ですが。』と、※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]つた眼を男に注いで、『貴方はあの、渡邊さんへ被行《いらつしや》るんで御座いますか。』
『え、突然訪ねて見ようと思ふんですがね。』と、少し腑に落ちぬ樣な目附をする。
『まあ、左樣で御座いますか!』と一層驚いて、『私もあの、其家《そこ》へ參りますので……渡邊さんの妹|樣《さん》と私と、矢張り同じ級《クラス》で御座いまして。』
『妹樣と? 然うですか! これは不思議だ!』と吉野も流石に驚いた。
『あの、久子さんと被仰《おつしや》います……。』
『然うですか! ぢや何ですね、貴女と僕と同じ家に行くんで! これは驚いた。』
『マア眞箇《ほんと》に!』と言ひ乍ら、智惠子は忽ち或る不安に襲はれた。靜子の事が心に浮んだので。
第七
一
宿直の森川は一日の留守居を神山富江に頼んで、鮎釣に出懸けた。
休暇になつてからの學校ほど伽藍堂《がらんどう》[#「伽藍堂」は底本では「伽籃堂」]に寂しいものはない。建物が大きいのと平生耳を聾する
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