ぬ三男の雄三といふのまで、祖父母や昌作、その姉で年中病床にゐるお千世などを輕蔑する。其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》間に立つてゐる温なしい靜子には、それ相應に氣苦勞の絶えることがない。實際、信吾でも歸つて色々な話をしてくれたり、來客でもなければ、何の樂みもないのだ。尤も、靜子は譬へ甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》事があつても、自分で自分の境遇に反抗し得る樣な氣の強い女ではないのだが。
畫家の吉野滿太郎が來たのは、又しても靜子に一つの張合を増した。吉野の、何處か無愛相な、それでゐてソツのない態度は、先づ家中の人に喜ばれた。左程長くはないが、信吾とは隨分親密な間柄で(尤も吉野は信吾を寧ろ弟の樣に思つてるので)この春は一緒に畿内の方へ旅もした。今度はまた信吾の勸めで一夏を友の家に過す積りの、定つた職業とてもない、暢氣《のんき》な身上なのだ。
言ふまでもなく信吾は、この遠來の友を迎へて喜んだ。それで取敢へず離室《はなれ》の八疊間を吉野の室に充てゝ、自分は母屋《おもや》の奧座敷
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