」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に惡かアないんですけど……。』
『臥《ね》てゐるか?』
『臥たり起きたり。例《いつも》のリウマチに、胃が少し惡いんですつて。』
『胃の惡いのは喰ひ過ぎだ。朝から煙草許り喫《の》んでゐて、怠屈まぎれに種々《いろん》な物を間食するから惡いんだよ。』
『でもないでせうが、一體阿母さんは丈夫ぢやないのね。』
『若い時の應報《むくい》さ。』
『まあ!』と眼を大きく※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。母のお柳《りう》は昔盛岡で名を賣つた藝妓であつたのを、父信之が學生時代に買馴染んで、其爲に退校にまでなり、家中反對するのも諾《き》かずに無理に落籍《ひか》さしたのだとは、まだ女學校にゐる頃叔母から聞かされて、譯もなく泣いた事があつた……が、今迄遂ぞ恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》言葉を兄の口から聞いた事がない。靜子は、宛然《さながら》自分の祕密でも言ひ現された樣な氣がして、さつと面《おもて》を染めた。

      三

 信吾も少し言過ぎたと思つたかして直
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