樣にも思はれる。輕い失望の影が靜子の心を掠めた。
『何を其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》に見てるんだ、靜さん?』
『ホホ、兄樣少し老《ふ》けたわね。』と靜子は莞爾《につこり》する。
『あゝ之か?』と短い髭を態《わざ》とらしく捻り上げて、『見落されるかと思つて心配して來たんだ。ハハハ。』
『ハハハ。』と松藏も聲を合せて、背の鞄を搖り上げた。
『怎《どう》だ、重いだらう?』
『何有《なあに》、大丈夫でごあんす。年は老つても、』と又搖り上げて、『さあ、松藏が先に立ちますべ。』
連立つて停車場を出た。靜子は、際どくも清子の事を思浮べて、杖形《ステッキがた》の洋傘を突いた信吾の姿が、吾兄ながら立派に見える、高が田舍の開業醫づれの妻となつた彼の女が、今度この兄に逢つたなら、甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》氣がするだらうなどと考へた。
二町許りも構内の木柵に添うて行くと、信號柱《シグナル》の下で踏切になる。小川家へ行くには、此處から線路傳ひに南へ辿つて、松川の鐵橋を渡るのが一番の近
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