で、彼國《むかう》でも第三流位にしきや思つてないんだ。感情が粗雜で稚氣があつて、獨《ひとり》で感激してると言つた樣な詩なんでさ。新時代の青年が那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》古いものを崇拜してちや爲樣が無いね。』
『眞理と美は常に新しい!』と、一度砂を潜《もぐ》つた樣にザラザラした聲を少し顫はして、昌作は倦怠相《けだるさう》に胡座《あぐら》をかく。
『ハッハヽヽ。』と、信吾は事も無げに笑つた。『だが何かね? 昌作さんはバイロンの詩を何《ど》れ/\讀んだの?』
 昌作の太い眉毛が、痙攣《ひきつ》ける樣にピリヽと動いた。山内は臆病らしく二人を見てゐる。
『讀まなくちや爲樣が無い!』と嘲る樣に對手の顏を見て、
『讀まなくちや崇拜もない。何處を崇拜するんです?』
と揶揄《からか》ふ樣な調子になる。
『信吾や。』と隣の室からお柳が呼んだ。『富江さんが來たよ。』
 昌作はジロリと其方を見た。そして信吾が山内に挨拶して出てゆくと、不快な冷笑を憚りもなく顏に出して、自暴《やけ》に麥煎餅を頬張つた。
 次の間にはお柳が不平相な顏をして立つてゐて、
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