さう願ひたいんで。これで何ですからな、無論私などもお話相手には參りませんが、何しろ狹い村なんで。』
『で御座いますからね。』とお柳が引取つた。『これが(頤で信吾を指して)退屈をしまして、去年なんぞは貴方、まだ二十日も休暇が殘つてるのに無理無體に東京に歸つた樣な譯で御座いましてね。今年はまた私が這※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》にブラ/\してゐて思ふ樣に世話もやけず、何彼と不自由をさせますもんですから、もう昨日あたりからポツ/\小言が始りましてね。ホヽヽ。』
『然《さ》うですか。』と加藤は快活に笑つた。
『それぢや今年は信吾さんに逃げられない樣に、成るべく早くお癒りにならなけや不可《いけ》ませんね。』
『えゝもうお蔭樣で、腰が大概良いもんですから、今日も恁うして朝から起きてゐますので。』
『何ですか、リウマチの方はもう癒つたんで?』と信吾は自分の話を避けた。
『左樣、根治とはまあ行き難い病氣ですが、……何卒。』と信吾の莨を一本取り乍ら、『撒里矢爾酸曹達《さるちるさんそうだ》が阿母《おつか》さんのお體に合ひました樣で……。』とお柳の病
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