は、わが仇の吉野の室に妹が行つてゐたと思ふと、抑へきれぬ不快な憤怒が洪水の樣に頭に溢れた。
『貴樣こそ何處に行つてるんだ? 夜《よる》夜中人が寢て了つてから!』
靜子は驚いて目を丸くして立つてゐる。それが、何か嚴しく詰責でもされる樣で、信吾の憤怒は更に燃える。
『莫迦野郎! 何處に行つてるんだ?』と言ふより早く一つ靜子を擲つた。
靜子は矢庭に袂を顏にあてた。
『兄樣……其樣《そんな》……』
『此方へ來い。』と、信吾は荒々しく妹の手を引張つて、自分の室に入るとドッと突倒した。
『此畜生! 親や兄の眼を晦まして、……』
『わツ。』と靜子は倒れた儘で聲をあげた。先刻町から歸つてから、待てども/\兄が歸らぬ。母も叔母も何とも言つてくれぬだけ媒介者との話の成行《なりゆき》が氣にかゝつた。自分から聞かれる事でもなく、手頼るは兄の信吾、その信吾が今日|媒介者《なかうど》が來たも知らずにゐると思ふと、もう心配で/\堪らなくなつて、今も密《そつ》と吉野の室に行つて、その歸りの遲きを何の爲かと話してゐたのである。
靜子は故なき兄の疑ひと怒が、口惜しい、恨めしい、辯解をしようにも喉が塞つて、たゞ堅く/
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