\袖を噛んだが、それでも泣き聲が洩れる。
『莫迦野郎!』と、信吾は又しても唸る樣に言つて、下唇を喰縛り、堅めた兩の拳をブルブル顫はせて、恐しい顏をして突立つてゐる。
 靜子は死んだ樣に動かない。
『よし。』と信吾はまた唸つた。『貴樣はもう松原に遣《や》る。貴樣みたいなものを家に置くと、何をするか知れない。』
『マ。』と言つて、靜子はガバと起きた。『兄樣……其松原から今日人が來て……それで……』
 手荒く襖が開いて、次の間に寢てゐる志郎と昌作が入つて來た。
『怎《ど》うしたんだい兄|樣《さん》?』
『默れ!』と信吾は怒鳴つた。『默れ! 貴樣らの知つた事か。』
 そして、亂暴に靜子を蹴る、靜子は又ドタリと倒れて、先よりも高くわツと泣く。
『何だ?』と言ひ乍ら父の信之も入つて來た。『何だ? 夜更《よふけ》まで歩いて來て信吾は又何を其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に騷ぐのだ?』
『糞ツ。』と云ひさま、信吾は又靜子を蹴る。
『何をするッ、此莫迦!』と、昌作は信吾に飛びつく。志郎も兄の胸を抑へる。
『何をするツ、貴樣らこそ。』と、信吾はもう無中に咆り
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