。それが段々烈しくなつて來る。
 隙を見て、智惠子は思ひ切つてつと男の傍へ寄つた。
『私、お先に歸ります。』
『其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に惡くなりましたか?』
『少し……少しですけれどもお腹がまた痛んでくる樣ですから。』
『可けませんねえ! 怎《ど》うです加藤さんに被行《いらし》つたら?』
『否、ホンの少しですから……あの、明日でも彼來《いらし》つて下さいませんか? 何卒《どうぞ》。』
『行きます、是非。』と言つて、吉野は強く女の手を握つた。女も握り返した。
『好い月ですわねえ!』
 智惠子は猶去り難げに恁《か》う言つた。そして、皆にも挨拶して一人宿の方へ歸つてゆく。月を浴びた其後姿を、吉野は少し群から離れた所に蹲《しやが》んで、遠く見送つてゐた。
 智惠子は痛む腹に力を入れて、堅く齒を喰縛りながら、幾回か後ろを振返つた。町の賑ひは踊の場所に集つて、十間離れたらもう人一人ゐない。霜の置いたかと許り明るい月光に、所々樺火の跡が黒く殘つて、軒々の提灯や行燈は半ば消えた。
 天心の月は、智惠子の影を短く地に印した。太皷の音と何十人の唄聲
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