て踊り始める。何處やらで調子はづれた高い男の聲が、最先に唄つた――
(ヨサレー茶屋のかーア、花染ーの――たす――き――イ――)
『面白いですねえ。』と、吉野は智惠子を振返つた。『宛然《まるで》古代《むかし》に歸つた樣な氣持ぢやありませんか!』
『えゝ。』智惠子は踊にも唄にも心を留めなかつた樣に、何か深い考へに落ちた態《さま》で惱まし氣に立つてゐた。
 と見た吉野は、『貴女《あなた》何處かまだ惡いんぢやないんですか? お體《からだ》の加減が。』
『否《いゝえ》、たゞ少し……』
 俄かに見物が笑ひどよめく。今しも破蚊帳を法衣《ころも》の樣に纏つて、顏を眞黒に染めた一人の背の高い男が、經文の眞似をしながら巫山戯《ふざけ》て踊り過ぎるところで。
『吉野さん!』智惠子は思ひ切つた樣に恁《か》う囁いた。
『何です?』
『あの……』と、眤《ぢつ》と俯向《うつむ》いた儘で、『私今日、あの、困つた事を致しました!』
『……何です、困つた事ツて?』
 智惠子は不圖顏を上げて、何か辛さうに男を仰いだ。
『あの、私小川さんを憤《おこ》らして歸してよ。』
『小川を※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 怎《ど》うし
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