か吉野が立つてゐる。
『あら!』と智惠子は恁《か》う小聲に言つて、若い血が顏に上つた。何がなしに體の加減が良くないので、立つてゐても力が無い。幾挺の太皷の強い響きが、腹の底までも響く。――今しもその太皷打が目の前を過ぎる。
吉野は無邪氣に笑つた。
二人は並んで立つた、立並ぶ見物の後ろだから人の目も引かぬ。
(私ーとー)と、好い聲で一人の女が音頭を取る。それに續いた十人許りの娘共は、直ぐ聲を合せて歌ひ次いだ。――
(――お前ーはーア御門ーのーとびーらーア、朝ーにーイわかーれーてエ、ー晩に逢ふ――)
同じ樣な花笠に新しい浴衣、淡紅色メリンスの襷を端長く背に結んだ其娘共の中に、一人、背の低い肥つたのがあつて、高音中音《ソプランアルト》の冴えた唄に際立つ次中音《テノル》の調子を交へた。それが態と道化た手振りをして踊る。見物は皆笑ふ。
ドヽドンと、先頭の太皷が合《あひ》を入れた。續いた太皷が皆それを遣る。調子を代へる合圖だ。踊の輪は淀んで唄が止む、下駄の音がゾロ/\と縺れる。
(ドヾドコドン、ドコドン――)と新しく太皷が鳴り出す。――ヨサレ節といふのがこれで。――淀んだ輪がまたそれに合せ
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