置いた癖に。』
『ホホヽヽ。そんなら言ひませうか。』
『聞いて上げませう。』
『あのね……』と、富江は探る樣な目附をして、笑ひ乍ら眞正面に信吾を見てゐる。
信吾は、其話が屹度智惠子の事だと察してゐる。で、恁《か》う此女に顏を見られると、擽られる樣な、かつがれてる樣な氣がして、妙に紛らかす機會がなくなつた。
『何です?』と、少し苛々《いら/\》した調子で言つた。
『ホホヽヽ。』と富江は又笑つた。『或る人がね。』
『或る人ツて誰?』
『まア。』
『可《よ》し/\。その或る人が怎《ど》うしたんです?』
『あの方をね。』と離室《はなれ》の方を頤で指す。
『吉野を。』と信吾の眼尻が緊つた。
『ホホヽヽ。』
『吉野を怎《ど》うしたんです?』
『……ですとサ。ホホヽヽ。』
『豈夫《まさか》? 神山|樣《さん》の口にや戸が閉《た》てられない。』と言つて、何を思つてか膝を搖つて大きく笑つた。
目的《あて》が外れたといふ樣に、富江は急に眞面目な顏をして、『眞箇《ほんとう》ですよ。』
『豈夫? 誰が其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事言つたんですか?』
『矢
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