で孤獨だ!」という渠の悲哀と共に、胸の中に亂れた。
若しも智惠子が、渠の嘗て逢つた樣な近づき易い世の常の女であつたなら、渠は直ぐに強い輕侮の念を誘ひ起して自ら此不安から脱れたかも知れぬ。然し眼前の智惠子は渠の目には餘りに清く餘りに美しく、そして、信吾の所謂、近代的女性《モダーンウーマン》で無いことを知つた丈に、其不安の興奮が強かつた。自制の意が醉ひ醒めの侘しさを掻き亂した。豐かな洗髮を肩から背に波打たせて、眤《ぢつ》と川原に目を落して、これも烈しく胸を騷がせてゐる智惠子の歴然《くつきり》と白い横顏を、吉野は不思議な花でも見る樣に眺めてゐた。
と、飛び交ふ螢の、その一つが、スイと二人の間を流れて、宙に舞ふかと見ると、智惠子の肩を辷つて髮に留つた。パッと青く光る。
『あ、』と吉野は我知らず聲を立てた。智惠子は顏を向ける。其拍子に螢は飛んだ。
『今螢が留つたんです、貴女の髮に。』
『まア!』と言つて、智惠子は暗ながら颯と顏を染めた。今まで男に凝視《みつめ》られてゐたと思つたので。
で、二人の目は期せずして其一疋の螢の後を追うた。フラ/\と頭の上に漂うて、風を喰つた樣に逆まに川原に逃げる
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