にするもんですか。』
そして取つて附けた樣にホホヽヽと又笑つた。
『だから不可《いけ》ない。』と昌作は錆びた聲に力を入れて、『體の大小によつて人を輕重するといふ法はない。眞箇に俺は憤慨する。家の奴等も皆|然《さ》うだ。』
『然《さ》うでないのは日向のハイカラさん許りでせう!』
昌作は聞かぬ振をして、『英吉利の詩人にポープといふ人が有つた。その詩人は、佝僂《せむし》で跛足《びつこ》だつたさうだ。人物の大小は體に關らないさ。』と、三文雜誌でゞも讀んだらしい事を豪さうに喋る。
『大層力んで見せるのね。だけれど山内樣は別に大詩人でもないぢやありませんか?』
『それは別問題だ。……』と正直に塞つて、『それは然うと、今言つた書を貸して下さい。』
『家に置いてあるの。』
『小使を遣つて取寄せて呉れるさ。』と頼む樣な調子で。
『肺病患者なんかに!』獨言つ樣に言つて、『あのね、昌作さん。』と可笑しさを怺《こら》へた樣な眼附をする。『恁《か》う言つて下さいな山内さんに。あのね、評釋なんか無くつて解るぢやありませんかつて。』
『え? 何ですつて?』と昌作は眞面目に腑に落ちぬ顏をする。
『ホホヽヽヽ。』と
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