けたもの、第4水準2−94−57]に豪いの、その方は?』
『時にですな、』と昌作は附かぬ事を言ひ出した。『今日は貴女に用を頼まれて來たんだ。』
『オヤ、誰方から?』
其時小使が駄菓子の袋を恭しく持つて入つて來た。
二
『當てゝ御覽なさい。』と昌作はしたり顏に拗《す》ねる。
其顏を、富江はマジ/\と見てゐたが、小使の出てゆくのを待つて、
『信吾さんから?』
ピクリと昌作の眉が動いた。そして眼鏡の中で急しく瞬きをし乍ら顏を大きく横に振る。
『そんなら、誰方?』
『無論、貴女の知つた人からだ。』と小憎らしく濟したものだ。
『懊《じれ》つたい!』と自暴《やけ》に體を顫はせて、
『よ、誰方《どなた》からつてばさ。』
『ハッハハ、解りませんか?』と、何處までも高く踏んで出る。
『好いわ、もう聞かなくつても。』
『それぢや俺が困る。實はですね。』
『知りません。』
『登記所の山内君からだ。以前貴女から「戀愛詩評釋」といふ書を借りたことがあるさうだ。それを又讀みたいから俺に借りて來て呉れと言ふんですがね。』
『オヤ、何故御自分で被來《いらつしや》らないでせう?』
『だつて寢てるん
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