作さんの歌を大變賞めてるから、行つて御禮を被仰《おつしやい》よ。』
『フム。家の信吾ぢやないし。』
『え? 信吾さんが?』
『知らない。』
『信吾さんが行くの? マア好い事聞いた。ホホヽヽヽヽ、マア好い事聞いた。』
と、富江は彈《はじ》けた樣に一人で騷いで、
『マア好い事聞いた、信吾さんが智惠子さんの許《とこ》へ行くの。今度逢つたらうんと揶揄《からか》つて上げよう。ホホヽヽ。』
 昌作は冷かに其顏を眺めてゐたが、
『可けない/\。其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》話、吉野さんの前なんかで言つちや可けませんぞ。』
『あら、怎《ど》うして?』と忙しい眼づかひをする。
『だつて、詰らないぢやないですか。』
『詰らない? 言ひますよ私。』
『詰らない! 第一吉野さんの前で其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事が言へますか? 豪い人だ。信吾の友達には全く惜しい人だ。』
『まあ、大層見識が高くなつたのね?』
 すると昌作は、忽ち不快な顏をして默つた。
『其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠
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