『ハツハヽヽ。仏蘭西の有名な画家だ。』
『然《さ》う!』と言ひは言つたが、日本のモロウと云ふ意味は無論静子に解りツコはない。唯偉い事を言つたのだと思つて、『其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》方なら何故其後お出しにならないでせう?』
『然うさ、マア自重してるんだらう。彼奴《あいつ》が今度画いたら屹度満都の士女を驚かせる! 俺には近頃色ンな友人が出来たが、吉野君なんか其《その》中《うち》でもマア話せる男だ。』と、暗に自分の偉くなつた事を吹聴する様な調子で言ふ。
『姉様《ねえさん》、姉様。』と叫び乍ら、芳子といふ十二三の妹がドタバタ駆けて来た。
『何ですねえ、其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に駆けて!』
『でも、』と不平相な顔をして、『日向先生が被来《いらしつ》たんだもの!』
『おや!』と静子は兄の顔を見た。先程障子に映つた鳥影を思出したので。

     (五)の三

 二三日経てば小学校も休暇になる。平生《へいぜい》宿直室に寝泊《ねとまり》して居る校長の進藤は、モウ師範出のうちでも古手
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