鳥影
石川啄木

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小妹《いもうと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)世間|不知《しらず》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+向」、第3水準1−92−55]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)もと/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

     (一)の一

 小川静子は、兄の信吾が帰省するといふので、二人の小妹《いもうと》と下男の松蔵を伴れて、好摩《かうま》の停車場《ステーシヨン》まで迎ひに出た。もと/\、鋤《すき》一つ入れたことのない荒蕪地《あれち》の中に建てられた、小さい三等駅だから、乗降《のりおり》の客と言つても日に二十人が関の山、それも大抵は近村の百姓や小商人《こあきんど》許《ばか》りなのだが、今日は姉妹《きやうだい》の姿が人の目を牽いて、夏草の香《かをり》に埋もれた駅内に、常になく艶《なまめ》いてゐる。
 小川家とい
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