んは丈夫ぢやないのね。』
『若い時の応報《むくい》さ。』
『まあ!』と目を大きく※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。母のお柳《りう》は昔盛岡で名を売つた芸妓《げいしや》であつたのを、父信之が学生時代に買馴染んで、其為に退校にまでなり、家中《うちぢゆう》反対するのも諾《き》かずに無理に落籍さしたのだとは、まだ女学校にゐる頃叔母から聞かされて、訳もなく泣いた事があつたが、今迄遂ぞ恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《こんな》言葉を兄の口から聞いた事がない。静子は、宛然《さながら》自分の秘密でも言現《いひあらは》された様な気がした。
(一)の三
信吾も少し言過ぎたと思つたかして直ぐに、
『だが何か? 服薬はしてるだらうね?』
『ええ。……加藤さんが毎日来て診て下さるのよ。』
『然うか。』と言つて、また態《わざ》とらしく、『然うか、加藤といふ医師《いしや》があつたんだな。』
静子はチラリと兄の顔を見た。
『医師が毎日来る様ぢや、余り軽いんでもないんだね?』
『然うぢやないのよ。加藤さんは交際家なんですもの。』
『
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