。』
連立つて停車場《ステーシヨン》を出た。静子は、際どくも清子の事を思浮べて、杖形《すてつきがた》の洋傘《かさ》を突いた信吾の姿が、吾兄ながら立派に見える、高が田舎の開業医づれの妻となつた彼《あ》の女《ひと》が、今度この兄に逢つたなら、甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》気がするだらうなどと考へてゐた。
二町許りも構内の木柵に添うて行くと、信号柱《シグナル》の下で踏切になる。小川家へ行くには、此処から線路伝ひに南へ辿つて、松川の鉄橋を渡るのが一番の近道だ。二人の小妹《いもうと》は、早く帰つて阿母《おつか》さんに知らせると言つて、足調《あしなみ》揃へてズン/\先に行く。松蔵は大跨にその後に跟《つ》いた。
信吾と静子は、相並んで線路の両側を歩いた。梅雨後《つゆあがり》の勢のよい青草が熱蒸《いき》れて、真面《まとも》に照りつける日射が、深張の女傘《かさ》の投影《かげ》を、鮮かに地《つち》に印《しる》した。静子は、逢つたら先づ話して置かうと思つてゐたことも忘れて、この夏は賑やかに楽く暮せると思ふと、もう怡々《いそいそ》した心地になつ
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