かいもの》の様ぢやありませんので。お宅にでも伺つた時は何とか忠告して遣つて下さいましよ。』
『ハハヽヽ。否《いや》、昌作さんにした所で何か屹度大きい御志望を有《も》つて居られるんでせうて。それに何ですな、譬へ何を成さるにしても、あの御体格なら大丈夫で御座いますよ。……昌作さんもナンですが、(と信吾を見て)失礼乍ら貴君《あなた》も好い御体格ですな。五寸……六寸位はお有りでせうな? 何方《どちら》がお高う御座います?』
 気の無い様な顔をして煙を吹いてゐた信吾は、
『さあ、何方《どつち》ですか。』と、吐月峯《はいふき》に莨の吸殻を突込む。
『何方《どつち》もモウ背許り延びてカラ役に立ちませんので、……電信柱にでも売らなけや一文にもなるまいと申してゐますんで。ホホヽヽヽ。』と、お柳は取つて付けた様に高笑ひする。加藤も為方《しかた》なしに笑つた。
 十分許り経つて加藤は自転車で帰つて行つた。信吾は玄関から直ぐに書斎の離室《はなれ》へ引返さうとすると、
『信吾や、先《ま》ア可いぢやないか。』と言つて、お柳は先刻《さつき》の座敷に戻る。
『お父様《とうさん》は今日も役場ですか?』と、信吾は縁側に立
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