』と、静子は穏《おとな》しく答へて心持顔を曇らせる。
『然うかい。三尺さんかい!』とお柳は蔑《さげす》む色を見せたが、流石に客の前を憚つて、
『ホホヽヽ。』[#「『ホホヽヽ。』」は底本では「「ホホヽヽ。』」]と笑つた。『昌作さんの背高《のつぽ》に山内さんの三尺ぢや釣合はないやね。』
『昌作さんにお客?』と信吾は母の顔を見る。
 其《その》間《ま》に静子は彼方の室《へや》へ行つた。
『然うだとさ。山内さんて、登記所のお雇さんでね、月給が六円だとさ。何で御座いますね。』と加藤の顔を見て、『然う言つちや何ですけれど、那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》小い人も滅多にありませんねえ、家《うち》ぢや小供らが、誰が教へたでもないのに三尺さんといふ綽名《あだな》をつけましてね。幾何《いくら》叱つても山内さんを見れや然う言ふもんですから困つて了ひますよ。ホホヽヽ。七月児《ななつきご》だつてのは真個《ほんと》で御座いませうかね?』
『ハツハヽヽ。怎《ど》うですか知りませんが、那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−5
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