やら病人の臭気《にほひ》やらがムツと籠つてゐた。お利代は洋燈を消し、窓を明けた。朝の光が涼しい風と共に流れ込んで、髪乱れ、眼|凹《くぼ》み、皮膚《はだ》の沢《つや》なく弛《たる》んだ智恵子の顔が、モウ一週間も其余も病んでゐたものの様に見えた。
 加藤は先づ概略《あらまし》の病状を訊いた。智恵子は痛みを怺へて問ふがまゝに答《こたへ》る。
『不可《いけ》ませんナア!』
と医師は言つた。そして診察した。
 脈も体温も少し高かつた。舌は荒れて、眼瞼《がんけん》が充血してゐる。そして腹を見た。
『痛みますか?』と、少し脹つてゐる下腹の辺を押す。
『痛みます。』と苦気《くるしげ》な声。
『此処は?』
『其処も。』
『フム。』と言つて、加藤は腹一帯を軽く擦《さす》りながら眉を顰めた。
 それからお利代を案内に裏の便所へ行つて見た。
「赤痢だ!」と、智恵子は其時思つた。そして吉野に逢へなくなるといふ悲哀《かなしみ》が湧いた。
 智恵子の病気は赤痢――然も稍《やや》烈しい、チフス性らしい赤痢であつた。そして午前九時頃には担荷に乗せられて、隔離病舎に収容された。お利代の家の門口には「交通遮断」の札が貼られ
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