(十二)
智恵子は、前夜腹の痛みに堪へかねて踊から帰つてから、夜一夜苦み明した。お利代が寝ずに看護してくれて、腹を擦《さす》つたり、温めたタヲルで罨法《あんぱふ》を施《や》つたりした。トロ/\と交睫《まどろ》むと、すぐ烈しい便気の塞迫と腹痛に目が覚める。翌朝《あくるあさ》の四時までに、都合十三回も便所《はばかり》に立つた。が、別に通じがあるのではない。
夜が清々《すがすが》と明放れた頃には、智恵子はモウ一人で便所にも通へぬ程に衰弱した。便所は戸外《そと》にある。お利代が医師《いしや》に駆付《かけつ》けた後、智恵子は怺《こら》へかねて一人で行つた。行くときは壁や障子を伝つて危気《あぶなげ》に下駄を穿《つつ》かけたが、帰つて来てそれを脱ぐと、モウ立つてる勢《せい》がなかつた。で、台所の板敷を辛《やつ》と這つて来たが、室に入ると、布団の裾に倒れて了つた。抉《ゑぐ》られる様に腹が痛む。小供等はまだ起きてない。家の中は森としてゐる。窓側の机の上にはまだ洋燈が朦然《ぼんやり》点《とも》つてゐた。
智恵子は堅く目を瞑《つぶ》つて、幽かに唸りながら、不図、今し方|戸外《そと》へ出た
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