、同年輩《おないどし》の、見悄《みすぼ》らしい装《なり》をした、洗晒しの白手拭を冠《かぶ》つた小娘が、大時計の下に腰掛けてゐる、目のシヨボ/\した婆様《ばあさん》の膝に凭れてゐた。
駅員が二三人、駅夫室の入口に倚懸《よりかか》つたり、蹲んだりして、時々|此方《こつち》を見ながら、何か小声に語り合つては、無遠慮に哄《どつ》と笑ふ。静子はそれを避ける様に、ズツと端の方の腰掛に腰を掛けた。銘仙|矢絣《やがすり》の単衣《ひとへ》に、白茶の繻珍《しゆちん》の帯も配色《うつり》がよく、生際《はえぎは》の美しい髪を油気なしのエス巻に結つて、幅広の鼠《ねず》のリボンを生温かい風が煽る。化粧《けは》つてはゐないが、さらでだに七難隠す色白に、長い睫毛《まつげ》と格好のよい鼻、よく整つた顔容《かほだて》で、二十二といふ齢よりは、誰《た》が目にも二つか三《み》つは若い。それでゐて、何処か恁《か》う落着いた、と言ふよりは寧ろ、沈んだ処のある女だ。
六月|下旬《すゑ》の日射《ひざし》が、もう正午《ひる》に近い。山国《さんごく》の空は秋の如く澄んで、姫神山の右の肩に、綿の様な白雲が一団《ひとかたまり》、彫出され
前へ
次へ
全217ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング