《ふだんぎ》に白手拭の頬冠《ほほかむり》をしたのもある。十歳《とを》位の小供から、酔の紛れの腰の曲つた老婆様《おばあさん》に至るまで、夜の更け手足の疲れるも知らで踊る。人垣を作つた見物は何時しか少くなつた。――何れも皆踊の輪に加つたので――二箇所《ふたところ》の篝火《かがり》は赤々と燃えに燃える。
月は高く上つた。
強い太鼓の響き、調子揃つた足擦《あしずれ》の音、華やかな、古風な、老も若きも恋の歌を歌つてゐる此|境地《さかひ》から、不図目を上げて其静かな月を仰いだ心境《ここち》は、何人も生涯に幾度《いくたび》となく思浮べて、飽かずも其甘い悲哀に酔はうとするところであらう。――殊にも此夜の智恵子は、思ふ人と共にゐる楽しみと、体内《みうち》の病苦《くるしみ》と、唆る様な素朴な烈しい恋の歌と、そして、何がなき頼りなさに心が乱れて、その沈んで行く気持を強い太鼓の響に掻乱される様に感じながら、踊りには左程の興もなく、心持眉を顰《ひそ》めては、眤と月を仰いでゐた。
怒りと嘲笑《あざけり》を浮べた信吾の顔が、時々胸に浮んだ。智恵子は、今日その信吾の厚かましくも言出でた恋を、小気味よく拒絶《こと
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